ここ数年「産後クライシス」という言葉を聞くようになりました。「産後うつ」がママ自身の問題であるのに対し「産後クライシス」は夫婦関係の問題です。何気ない旦那の行動が目に付いたり言動がとにかく気になったり、「私たちも…」という方も多いのではないでしょうか。この記事では産後クライシスについて詳しく紹介し、当てはまっていないかチェックして産後の危機を乗り越えていける夫婦関係作りのヒントになれば幸いです。
目次
1.産後クライシスの誕生とその定義
「産後クライシス」という言葉は、NHKの「あさイチ」という番組から生まれました。きっかけは、通信教育を手掛けるベネッセが作っている研究所がはじめての子どもを持った夫婦288組について行った調査でした。「相手を本当に愛していると実感する」か、妊娠→出産→育児の4年間で割合がどう変化していくかを追った調査です。その結果、「相手を本当に愛していると実感する」女性の割合が産後にガクッと大きく低下していることが分かったそうです。男性についても、女性ほどの大幅な低下ではありませんが割合としては「愛していると実感する」男性も少なくなっています。
この調査結果を基にNHKのニュースで産後の夫婦関係の悪化について放送したところ大きな反響があり、「あさイチ」で特集が組まれることとなりました。その際にディレクターさんが「出産から子どもが2歳位までの間に、夫婦の愛情が急速に冷え込む現象」のことを「産後クライシス(crisis = 危機)」と名付けてこの言葉が誕生しました。特集の放送後、視聴者の方から2,700通ものメールやファックスが届いたとのこと。どれもこれまで視聴者の方たちが秘めていた切実な胸の内が書かれていたそうです。
「産後クライシス」という言葉が生まれる前から抱えていた辛さや悩みを、明確な定義ができたことによって表に出しやすくなったからだと考えられます。それだけ「産後クライシス」について悩んで辛い思いをしている方が多いということですね。一方で、局内の男性からの意見は大きく2つに分かれたそうです。1つは「全然気が付かなかった!」と、自分に対する妻からの愛情が減ってしまっていることに気が付いていなかったタイプ。もう1つは、「やっぱりそうだったんだ…」と薄々気が付きながらも問題に目を向けようとしてこなかったタイプです。この妻側と夫側の気持ちの温度差や産後の夫婦関係について2人で向き合うことができていないことが、産後クライシスの大きな要因となっているのかもしれません。
2.産後クライシスチェック
産後クライシスチェックリスト
周りの旦那さんを見ると、自分の夫との違いを感じる
育児の分担についてケンカが増えた
産後も、産前と何も変わりなく生活する夫にイライラする
夫婦2人で過ごす時間が大きく減り、会話も減っている
夫婦生活がない
夫を頼る気になれない
何気ない夫の行動や言動にすぐイライラする
夫が家事や育児を手伝ってくれてもなぜか腹が立つ
夫に触れられることに抵抗を感じる
自分の感情をコントロールすることが難しい
これらの項目の中で当てはまるものがある方は、産後クライシスが訪れている可能性が考えられます。結婚前や出産前には仲良く過ごすことができていたのに、産後になって急にこれらの負の感情を抱えることになるママも多いです。
産後クライシスが離婚の原因に?!
3.なぜ産後クライシスが訪れてしまうのか
産後クライシスは、離婚までは至らないにしてもその冷えた夫婦関係を続けていくことはママにとってもパパにとっても苦しいものになってしまいます。また、解消できたとしても「産後の恨みは一生の恨み」という言葉もあるように、その後の夫婦関係にも影響が出てしまうでしょう。そうならないようにする為には、まずは産後の危機が訪れてしまう原因を知ることが必要です。大きな原因となり得るのが、産後のママに訪れる大きな変化(危機)と、それに気が付かない、あるいは気が付いていても向き合おうとしない旦那や、産前と同じようにふるまう旦那への不満の爆発です。
産後のママに訪れる危機
①身体面の危機
また、気を遣いながら時間をかけて子どもを寝かせた直後に、仕事から帰宅したパパがドアをバタンと開けたり「ただいま~」と声をかけたりして目が覚めてしまった時。「せっかく少しは自分も眠れると思ったのに…一生懸命寝かしつけた時間を返して…」と言いたくなりますよね。ですが旦那さん側は悪気がないことが多く、このような気持ちのすれ違いの積み重ねが産後クライシスを悪化させてしまうこともあるのです。
②精神面の危機
「思ったように家事が進まない」「赤ちゃんが泣き続けているけれどどうしたら泣き止むのか分からない」「赤ちゃんが寝ているうちに休憩したいけれど、様子が気になってひと時も気持ちが休まらない」「産後の体型が気になる」「自分の時間がまったくない」など、自分自身に落胆してしまったり心底疲れてしまったりすることもありますよね。そこで、帰宅した旦那さんに「何で部屋がこんなに片付いていないの」「俺のご飯は?」「1日家にいられて楽だよな」などという言葉をかけられたら、ずっと忘れることができないほどの怒りを覚えるでしょう。ママや赤ちゃんの様子を気にも留めず旦那さん1人でお風呂に入って部屋にこもって寝てしまったら…ママは孤独になってしまいます。
③社会的な危機
その日感じたことや子どもの成長のことなどを誰かと話したくても、産後すぐはお出かけするのも難しく、大人同士の会話に飢えていました。そのような状況の時、やはり一番近くにいて一番時間を共にするのは旦那さんですよね。その一番そばにいてくれる人と気持ちが通じ合っていないと、とてつもない孤独を感じてしまうことになりかねません。
4.産後クライシスを回避するために(妻視点)
先述した産後クライシスが訪れてしまう原因を踏まえて、産後クライシスが訪れないために、そして既に訪れてしまって夫婦関係が変わりつつあるという方はこれ以上悪化させないために、以前のような関係に戻るために、少しずつできることから始めていく必要があります。ホルモンバランスや身体の不調など時間が解決して癒してくれるものもありますが、まずは自分たち自身でも「より良い関係を築いていきたい」という意思を持つことが大切です。
ポイント①「察して」はやめること。思いを言語化すること
これは筆者自身も産後クライシスを経験して実感したことですが、「私はこれだけ辛い思いをしているんだから、分かってよ」「夫婦なんだから、察してよ」という旦那さんに対する要望は持たない方が良いです。察してくれないことに更に腹が立ち、話しかけられてもつい無視をしてしまったりドアを強く開け閉めしたりして「こんなに怒っているんだよ!」と態度で示そうとしてしまいます。それでも気が付かない旦那さんに余計にイライラして…この悪循環は止めるべきです。大切なのは自分の気持ちや状況、要望について具体的に言語化して伝えること。
「今日〇時間しか寝られていないから、1時間だけ仮眠する時間をちょうだい。」「1日中ご機嫌斜めでずっと抱っこしていて、ご飯の用意が難しかった」「ほんの数分立っているだけで腰が痛くなってしまう」といったように、お願いしたいことや自分の身体のことなどを伝えてみましょう。「何で分かってくれないの!」「見たら分かるでしょ!」と曖昧な言葉で怒りながら伝えるよりも、落ち着いて具体的に伝えた方が相手に伝わりやすいです。ママ自身もしんどい中で伝え方についても気を遣わなければいけないことは大変ではりますが、夫婦間のコミュニケーションとしてきちんと会話することはとても大切です。
ポイント②感謝の気持ちも言葉にして伝える
ポイント①とも関係しますが、旦那さんに対して感謝の気持ちを伝えたり労わりの言葉をかけたりすることも重要です。ママ自身も「身体、しんどいね」「今何が辛い?」と声をかけてもらうだけで気持ちが救われるように、旦那さんにも「今日も仕事お疲れさま」「さっきは〇〇してくれてありがとう」「本当に助かったよ」と言葉にして気持ちを伝えましょう。自分がしてもらって嬉しいことは相手にとっても同じです。「〇〇してくれない」という負の面ばかり見ているとどんどん悪循環になっていってしまうので、些細な一言でも構わないのでお互いを思いやる言葉を忘れないでいきたいですね。
ポイント③完璧を求め過ぎない
自分自身にも旦那さんに対する意識についても言えるのは、完璧を求め過ぎないことです。何かできないことがあってもそこに目を向けるのではなく「今日はこれができたからOK!」とプラスに捉えていきましょう。例えば旦那さんが家事や育児を何かした時に、やれていない部分が気になってそれを指摘してしまうと旦那さんの気持ちも良くありません。長時間外で仕事をしてきて旦那さんも疲れているのは事実なので、何かしてくれた時にはまずは感謝の気持ちや嬉しい気持ちを伝えて、気を付けてほしい部分に関しては伝え方を工夫しましょう。
5.産後クライシスを回避するために(夫視点)
前項では妻側の視点から産後クライシスの回避方法を紹介しました。ここでは旦那さん側の対策を紹介していきます。
ポイント①「自分はイクメンだ!」と思い過ぎない
ママ側が産後クライシスだと感じていても、パパはそうは思っていないケースもあります。「オムツも替えているし、休日は家族で遊びに出かけているし、仕事も頑張っているし、家事も手伝っている」と家事や育児に対して頑張っているパパも多いと思います。ですが、それらの行動が実はママが求めているものとは違うということもあります。ゴミ出しについて例を紹介します。あるパパは毎回ゴミ袋をゴミステーションに出していることについて「ママはとても助かっているだろう」と考えています。ですが、ゴミステーションにゴミを持っていくまでには、家中にあるごみ箱からゴミを集めて→空き容器は洗って→分別して→キッチンのシンクに溜まるゴミを処理して→シンクを洗って新しいネットをセットして→ゴミ箱にも新しいゴミ袋をセットして…という多くの段階を踏んでいます。
これらの作業は全てママがやって最後のゴミ出しだけがパパ担当という場合、ママの本音はどうでしょうか? このように、夫婦間で認識の相違が生まれてしまうと、産後クライシスに繋がっていってしまうのです。そうならないためには、お互いの気持ちをきちんと話して認識を合わせておくことが重要になります。先述のゴミ出しに関しては、ゴミを出すまでの全工程をパパに担ってもらえたら、産後のママはとても助かりますし心から感謝すると思います。
ポイント②主体性を持つ
「手伝おうか?」がNGワードになってしまうことをご存知でしょうか。「手伝う」とは、主でやっている人が別にいて、その周りの人がかける言葉です。産後のママに対して「何か手伝おうか?」と良かれと思って言ったとしても「手伝うってどういうことよ!!」と反感を買ってしまうことがあります。また、赤ちゃんや家の状況についてママにお知らせする一言も、主体性を欠いていると言えます。「オムツ、濡れてるよ」「なんだか眠たそうだよ」「トイレットペーパーがなくなりそうだよ」などと伝えても、伝えられたママたちは「伝えるくらいなら自分で行動してよ」と思ってしまうわけです。「オムツ、替えるね」と主体性を持って前向きに行動してくれると、ママ側も安心しますしパパへの信頼にも繋がります。
ポイント③ママへのねぎらいの気持ちを忘れない
「1日家にいられて良いよな」は外で働くパパたちの本音ではあるでしょう。社会に出て働く辛さや大変さ、長時間労働による疲労や通勤の疲れなど、パパたちも仕事をする上で身体的・精神的に辛い思いを抱えていると思います。ただ、だからといって「家にいられる方が楽」といったように夫婦間でお互いを比べて相手を羨む行為は、産後クライシスを加速させてしまいます。
産後間もないママたちは孤独感や誰にも認めてもらえないような虚しさを抱えていることが多いです。そのママに対して「今日はあまり寝られなかったね。ゆっくり休んで」「1日大変だったね」「ストレス溜まってないか?」とねぎらいの言葉をかけるだけで、ママたちの心は癒されます。そして、先述したような産後の身体的な不調や子どもの命を預かる責任感を抱えながら育児をすることの大変さについて心から理解することも大切です。
6.産後クライシスにおすすめの本
今回「産後クライシス」についてまとめるにあたって、こちらの文献を参考にさせて頂きました。「もしかして産後クライシス?」と思うようなことがあれば、周りに相談したり、こういった文献を読んでみたり、ネット上にはママたちのリアル体験記も溢れています。状況や乗り越え方も人それぞれとは思いますが、参考にしてみて下さいね。
①ポプラ社『産後クライシス』内田明香+坪井健人(2013)
TV番組「あさイチ」で取り上げられた特集が書籍となり、大反響となった一冊です。どの家にもありうる描写がたくさん描かれていて、納得しながら読み進めることができます。男女間の認識の差がどれだけ大きなものか、産後クライシスを回避・乗り越えるために、いかにコミュニケーションが大切か、この本を読めば分かるはず。さらっと短時間で読み終えることもできるので、出産前を控えたご夫婦には是非読んで頂きたいです!
②角川フォレスタ『産後クライシス なぜ、出産後に夫婦の危機が訪れるのか』岡野あつこ(2013)
実際に辛い経験をされてきた、現在夫婦問題の研究家でもある著者。こちらの文献では、実際にあった事例をいくつか取り上げ、そうなってしまった要因を探りながらこんな時どうしたらいいかというアドバイスが添えられています。旦那・妻・他者といろいろな目線から捉えられているので、気づくことや考えさせられることもあるでしょう。
③株式会社KADOKAWA『産後が始まった!夫による、産後のリアル妻レポート』渡辺大地(2014)
こちらは実際に産後クライシスを目の当たりにした旦那さんの日記です。パパ、ママそれぞれの目線からの感じ方、受け取り方が分かりやすく記されています。マンガテイストで描かれているので読みやすいですよ。ママはもちろん、パパにも読んでもらいたい一冊です。
子どもが巣立ち夫婦だけでの生活が始まった時、冷め切った夫婦になっているのかお互いを思い合える夫婦でいられるのか、産後クライシスも少なからず関わってくるでしょう。お互いを気遣う気持ちを忘れず、密なコミュニケーションを取ることを心掛けてくださいね。
最終更新日 2024年10月19日
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